お部屋の資料や契約書に、「退去時のルームクリーニング代は借主負担」との記載。これって貸主の負担なんじゃないの?と疑問をお持ちのあなたへ!
法律的な考え方もからんできますが、賃貸歴20年以上の筆者がなるべくわかり易くこの問題にズバッとお答えします!ぜひ最後までご覧ください!
まずルームクリーニングって何?
専門のクリーニング業者が薬剤等を使用し清掃することで、入居中のお掃除では落とすことが難しい汚れなどを落とし、お部屋をきれいにする作業です。

お掃除をどんなに頑張っても、どうしても取り切れない頑固な汚れがあります。これを落とすことでお部屋をもとの綺麗さに戻すわけですね。
ルームクリーニング費用はどちらの負担なのか
原則:ルームクリーニング費用は貸主負担
ではその費用はどちらが持つべきなのでしょうか。民法621条では次のように定められています。
(賃借人の原状回復義務)
第六百二十一条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。引用元:e-Gov 法令検索
「通常に使用した損耗(通常損耗)を除く」とありますので、ちゃんとお掃除をしていれば、借主は原状回復の義務は無い(支払わなくて良い)ということですね。
※それまで判例などで確立していた原状回復の解釈が2020年4月の民法改正時に明文化されました
理由:家賃に含まれているハズだから
なぜ貸主負担かというと、
コンビニでおにぎりを販売する際、原材料費、店舗代、人件費、運送費などなど、いろいろな必要経費がかかりますが、それを見込んだ上で、赤字にならないようにおにぎりの値段が決められます。これが普通ですよね?
これが家賃にも当てはまり、維持管理費、ルームクリーニング代、修繕費、共用部の電気水道代などなど、かかる必要経費を全部見込んだ上で赤字にならないように家賃が決められているハズだと法律では判断されています。
なので
「すでに家賃の一部としてルームクリーニング代を回収しているハズなのだから、貸主負担」
ということです。

例外の場合もある
ルームクリーニング費用を借主負担とすることもできる
契約は民法の「契約自由の原則」に基づき、法律に違反しない限り、貸主・借主の合意によって自由に決めることができます。
ルームクリーニング費用の場合、毎月の家賃に含める形で契約し貸主が負担するのが原則ですが、これを家賃に含めず、退去時に借主が負担する契約も有効となります。

ただし例外を成立させるには厳しい条件がある
ただしいくら例外が認められるとしても、退去時にいきなり「ルームクリーニング費用は100万円」と言われても困ってしまいますよね。そのため、国土交通省にて判例等を踏まえて作成された「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、次の要件を満たしておくことが必要だと記載されています。
- 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
- 家賃にルームクリーニング分が入っていないなどの理由があること、請求する金額を予め提示しその金額が高くないこと
- 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
- 本来は貸主負担であるルームクリーニング費用を、借主が支払うことについて説明を受けて納得していること
- 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
- 支払う意思を示していること(契約書の署名捺印など)
基本的にルームクリーニング費用を借主負担とする場合、どの不動産会社でも後日のトラブルを防ぐため、上記3要件が賃貸アパート・マンションの契約書などにまとめられて、契約時に説明を受けた後に契約締結となります。
ただし、この3要件を定めている「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」はあくまで紛争防止を目的とし、多くの判例を反映させた業界のルールブックであり、法律ではありません。もし争いとなった場合には3要件の成立具合などから個別に判断され、貸主負担すべきと判断される可能性も有ります。
ルームクリーニング費用の負担、本当のところは?
賃貸アパート・マンションを内見されるときに、玄関や水回りに「クリーニング済」と書かれた紙がおいてあるのを見たことがある方は多いのではないでしょうか?
汚い状態よりも綺麗な状態でお部屋を見てもらったほうがお部屋にいい印象を持っていただきやすいですし、借りる方も綺麗な状態で入居したいと思いますよね。
そのため、ルームクリーニングは必ずと言っていいほど実施されますし、実施されることに貸主も借主も問題があるわけではありません。
トラブルとなるのはその費用を「どちらが持つのか」ということなのですが、結論としては
見え方が違うだけでどちらも借主が実質負担している
と言えるでしょう。ただ残念なのはその支払い方法によって
- 家賃の一部に組み込んで支払う方法(貸主負担)
- 原則のためルールが定まっておりトラブルにならない
- 家賃に内包され、見えないのでトラブルにならない
- 後で支払う方法(借主負担)
- 例外のため規制が多数ありトラブルになりやすい
- 特別な説明が必要で目立ってしまいトラブルになりやすい
となってしまっていることです。
確かに後で支払う方法の場合、それだけ捉えると「損した」と思われるかもしれません。
ですがその分毎月の家賃が低く抑えられている可能性が有り、その場合礼金や仲介手数料、更新料など家賃が基準となっている費用も安くなるなど、一概に「損している」とは言えません。
退去時に支払う費用も含めて家賃として考え、契約前に不動産会社としっかり話し合い、納得のいく形で契約を結ぶことが大切です。
インターネット上には「無条件でルームクリーニング費用の借主負担は無効だ!」といった、借主の権利を一方的に主張するような誤った情報も多く見られます。その結果、本来トラブルにならないはずの契約について、誤解を持ったまま不動産会社や貸主と対立してしまうケースも少なくありません。今現在トラブルを抱えている、もしくはトラブルに発展しそうな場合は、ぜひ公的機関のQ&Aや相談窓口を参照していただきたいと思います。
国土交通省:民間賃貸住宅の入居・退去に関する留意点等
参考
国土交通省:原状回復をめぐるトラブルとガイドラインについて
公社 不動産流通推進センター:退去時のハウスクリーニング費用を賃借人負担とすることの妥当性と賃貸人の賃借人に対する実施報告の要否