拒否?交渉できるの?賃貸アパート・マンションの家賃値上げの対応をプロがお答えします!

更新のタイミングで、貸主から「家賃を上げたい」と言われたら、どう対応すればいいのでしょうか?突然の連絡に驚いたり、不安になったりする方も多いはず。

実は、家賃の値上げには法律上のルールや一定の条件があります。焦らず、まずは状況を冷静に確認することが大切です。

この記事では、賃貸業界歴20年以上の筆者が、対応方法についてわかりやすく解説します!

目次

家賃の値上げ通知…これって法律的にアリ?

「契約書で決めた家賃を、一方的に値上げするなんて違法じゃないの?」と思う方も多いのではないでしょうか。まずは家賃値上げが法律的にどうなのか?についてお話します。

貸主は通知によって値上げができます。でも借主も対抗できます。

✅ 近隣の家賃相場が上がった
✅ 建物や土地にかかる税金が増えた
✅ 建物の維持管理費が物価上昇に伴って増加した

こうした理由で、現在の家賃が「不相当」と判断される場合、貸主は家賃の値上げを請求できるとされています。(借地借家法 第32条1項)

さらに、家賃の値上げ請求は「通知すれば有効」と考えられており、たとえ借主が拒否しても、基本的には避けられないものとされています。

ですが一方で、借主はこの増額請求に納得しない場合、裁判で貸主の家賃増額が正当だと判断されるまでの間、自身が相当と認める額の賃料を払うことができます。(借地借家法 第32条2項)

※「相当と認める家賃」は、基本的にこれまでの家賃(値上げ前の賃料)を支払い続ければOKです

まとめると、

  • 貸主が通知をして家賃は上がる
  • 借主は納得しないならこれまでの家賃を支払える(裁判確定まで)

ということになります。

では裁判確定まで放置していれば良いのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実際に法定手続きへと移行すると、平日に裁判所に出向かなければならなかったり、弁護士費用等もかかるなど、時間・費用ともに大きな負担となります。

よっぽどの方でない限りは、次からの対応策を参照いただき、話し合いで解決されることをオススメします。

借地借家法 第32条1項 条文

建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

参考|e-Gov法令検索 借地借家法 第32条1項

借地借家法 第32条2項 条文

建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。

参照|e-Gov法令検索 借地借家法 第32条2項

具体的な対応フロー

通知が届いたらまずは話し合いをしよう!

大前提として、家賃は貸主と借主が合意した金額で決まります。これは、借主が「物価が下がったから家賃を安くしてほしい」と減額を求める場合も同じです。

そのため、家賃の増額通知を受け取ったら、まずは貸主や管理会社と話し合いの場を設けましょう。感情的にならず、冷静に状況を確認することが大切です。

値上げの理由を確認

家賃の値上げ通知を受け取ったら、まずは貸主がどんな理由で値上げを検討したのかを確認しましょう。

通知に理由が記載されている場合がほとんどですが、もし明記されていなければ、管理会社や貸主に問い合わせる必要があります。

主な値上げの理由として考えられるのは、以下のようなものです。

家賃の相場と比べて安いから

家賃は市場の動向に影響を受けます。特に長期間住んでいると、契約当時の家賃と現在の相場に差が生じることが多いです。

例えば、2015年と2025年の家賃を比較すると

スクロールできます
エリア2015年1月2025年1月増加率(%)
千葉県(全域)56,626円59,160円約4%
東京都(全域)71,412円77,190円約8%
全国54,480円57,112円約5%
(全国賃貸管理ビジネス協会「全国家賃動向」より集計)

エスホームのある浦安市を含む千葉県全体でも家賃は約4%上昇しています。特に人口が集中するエリアでは、これ以上の上昇が見られることも。

そのため、周辺の相場と比べて家賃が安すぎる場合、貸主が家賃の改定を申し出る可能性があります。

貸主の支払う税金や金利が高騰しているから

貸主も物件を維持するために費用を支払っています。その中でも固定資産税やローン金利の上昇により、収支のバランスが崩れることがあり、貸主の支払い負担が増えるため、家賃の値上げにつながることがあります。

※入居時は金利等を見込んだ家賃で募集されていることが多いので、長期間住んでいる方が対象になるケースが多いです

建物の維持管理費が高騰しているから

建物を維持するための費用も年々上昇しています。

  • 人件費の高騰(管理会社・清掃スタッフの費用増)
  • 共用部の電気代上昇(エレベーター・照明など)
  • 修繕コストの増加(資材・部品の値上がり)

これらのコストが増えると、共益費(家賃込の場合はその想定額)だけでは補えず、値上げする場合があります。

※共益費は全戸一律の建物も多く、居住年数に関係なく値上げが発生することがあります

ちなみにですが、物価の1つの指標である消費者物価指数(統計局)ですが、2020年を100と仮定した場合、本記事製作時の2025年1月は111.2(11.2%増)となっています。

値上げの根拠をしっかり確認!

理由がわかったら、次は「本当に値上げが妥当なのか?」を確認しましょう。

値上げに妥当性はある?

先述のとおり、貸主が家賃を上げられるのは「現在の家賃が不相当」と判断される場合のみ。ただし、その判断には客観的な根拠が必要です。

具体的には、以下のような資料を提示してもらいましょう。

✅ 周辺の家賃相場の変化 → 募集図面や賃料相場のデータ
✅ 維持管理費の上昇 → 修繕費や管理費の領収書・請求書
✅ 税金の上昇 → 固定資産税課税台帳の写し

「このくらい上がったから、その分値上げするよ」と納得できる説明があるかどうか、しっかり確認することが大切です。

自分でも確認してみよう

貸主の提示するデータを鵜呑みにするのではなく、自分でも確認できるものは確認してみましょう。

✅ 周辺の家賃相場の変化 → 賃貸サイト(SUUMOなど)で検索、全国家賃動向(全国賃貸管理ビジネス協会)など
✅ 維持管理費の上昇 → 物価上昇率や消費者物価指数(統計局)など
✅ 税金の上昇 → 不動産価格指数(国土交通省)など

上記のデータ等を参考にして、貸主の資料や言い分の正当性があるか確認してみましょう。

ちなみに妥当性の判断基準は借りたとき(途中で家賃の上昇が合った場合はその時)と比較してどうか?です。例えば家賃7万円で1年前借りた人が、住んで1年も経過していないのに近隣相場(8万円)と合わないから家賃を値上げすると言われても、それは募集家賃の設定がおかしかったのであって、たった1年で家賃相場は変動していないし管理費の上昇も微々たるものなので、仮に裁判になったとしても認められない可能性が高いです。

実際に話し合いをしよう

今までの資料などを確認し、値上げに妥当性があるかどうかで対応が変わります。

妥当性がある場合

値上げの理由に納得できる場合は、合意するのも一つの選択肢です。合意する場合は、送られてくる合意書にサインし、管理会社または貸主へ返送しましょう。

ただし、「納得はするけど、急な値上げは厳しい…」という場合は、交渉する余地もあります。例えば、

✅ 一部値上げは承諾(5,000円ではなく3,000円ならOK)
✅ 段階的な値上げなら承諾(今回は3,000円、次回の更新時に追加で2,000円UP)

といった条件を提示し、調整をお願いしてみましょう。

妥当性がない場合

貸主の提示した値上げに納得できない場合、いきなり対立するのではなく、まずは話し合いで解決を目指しましょう。

一部合意をする(前述の交渉案を参考に、負担を軽減する形で調整)
納得できない場合は退去も視野に入れると伝える(他の選択肢を示すことで、交渉の余地が生まれることも)

それでも折り合いがつかず、「どうしても受け入れられない!」となった場合は、最終的に話し合いが決裂してしまう可能性もあります。その場合は、今後の住まいについて改めて検討することが必要になります。

冒頭でもお伝えしましたが、話し合いが決裂し貸主が法的手続きに進んだ場合、時間的にも金銭的にも負担が大きくなります。個人的には継続して住む意思があるのであれば、大変だとは思いますが、交渉を継続し、妥協点を模索される事を強くお勧めします。

話し合いがまとまらない場合は

納得できない場合は、明確に家賃値上げを拒否する意思を伝えましょう。あいまいな態度を取らず、自分の立場をはっきりさせることが大切です。

もし話し合いがまとまらない場合、貸主は法的手続きによって家賃値上げの正当性を主張することになります。ただし、法的手続きではあくまで客観的な判断が下されるため、必ずしも貸主の主張が通るわけではありません。

「値上げの根拠が不十分」「現在の家賃が市場と比べて適正」など、妥当性がないと判断されれば、値上げが認められないケースもあります。話し合いが決裂した場合は、最終的な判断を法的手続きに委ねる形になりますが、その前にしっかりと交渉を尽くすことが重要です。

法的手続き(裁判・調停)

話し合いがまとまとまらず、貸主が法的手続きをを望んだ場合、まずは調停が行われ、貸主・借主双方が再び話し合う機会が設けられます。

もし調停でも合意に至らなければ、最終的に裁判へと移行し、裁判所の判決に従うことになります。

この間の家賃は冒頭でお伝えしたとおり、借主が妥当と考える家賃を支払えば問題ないとされています。

交渉が決裂したからと言って家賃を支払わなかったりすると、「家賃滞納状態」となり別の問題が発生しますので絶対に辞めましょう。また貸主から値上がった賃料しか受け取らないと受取を拒否されたら、法務局の供託制度といって貸主の代わりに家賃を受け取ってくれる制度も有ります。

法的手続きの結果と家賃の確定

裁判では判決の内容に、調停では調停の合意内容に沿って家賃が確定します。

  • 貸主の主張が認められなかった場合 → これまでどおりの家賃で継続
  • 一部でも認められた場合 → 判決や調停の決定に基づき、新しい家賃が適用

また、一部でも家賃の増額が認められた場合は、家賃を変更する予定だった日に遡って増額が適用されます。そのため、これまで支払っていた家賃との差額に利息を付けて貸主へ支払う必要があることに注意しましょう。(借地借家法 第32条2項)

最後に

今回は、家賃増額の請求があった場合の対応方法について解説しました。

私の経験上、貸主からの家賃値上げの相談は「銀行の返済や経営の事情でやむを得ない」というケースが多いです。

特にエスホームのある浦安市は、もともと漁師町だったこともあり、貸主様は下町気質の方が多い印象です。そのため、借主様との距離が比較的近く、良好な関係を築いている方が多いように感じます。

貸主様としても、「関係を壊したくないけれど、どうしても家賃を上げざるを得ない…」と悩みながら相談に来られるケースが少なくありません。

借主様としては家賃の上昇は負担になりますが、こうした背景も理解しながら、お互いにとって納得できる形を模索し、前向きに話し合っていただきたいと思います。

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