結局「賃貸と購入」どっちがお得なの?ホントのところ、プロがお教えします!

様々な不動産情報サイトで賃貸で暮らした方がお得なのか購入の方がお得なのか議論され、購入の方がお得という結論で締めくくられているサイトを多く見ます。ですが本当にそうなのでしょうか。本ページでは不動産業界経験15年以上の筆者が賃貸と購入のどちらがお得かを、フラットな立場でお伝えします。

目次

早速シミュレーションをやってみる

とある不動産情報サイトに掲載されていた計算例を参考に、エスホームのある浦安市で実際に取引されたマンションを当てはめて計算してみます。

賃貸の場合

ロケーション:浦安駅徒歩5分以内

平米数:約75㎡のマンション

家 賃:21万円(共益費込み)

契約条件:敷金:1ヶ月、礼金1ヶ月、更新料1ヶ月

設定条件:居住年数35年、消費税の計算や保険料等を除く、家賃は35年間下がらないと仮定

【入居時】21万円×4(敷金1・礼金1・仲介手数料1・諸費用)=84万円

【家 賃】家賃21万円×12カ月×35年=8,820万円

【更新料】家賃21万円×17(居住年数35年÷契約期間2年=更新回数、小数点以下切り捨て)=357万円

【合 計】9,261万円

購入する場合

ロケーション:浦安駅徒歩5分以内

平米数:約75㎡のマンション

販売価格:約7,500万円

住宅取得費用:頭金なし/諸費用375万円(5%と仮定)

住宅ローン:借入額7,500万円 返済期間35年 金利1.555%(執筆現在の大手5行の平均固定金利)

修繕積立金/管理費:10,000円/20,000円(わかりやすく千円未満四捨五入)

設定条件:住宅ローン控除、固定資産税、消費税などは考慮しない。修繕積立金や管理費は値上がりしないと仮定。

【購入時諸費用】375万円

【ローン返済額】9,730万円

【修繕積立金/管理費】30,000円(積立金・管理費合計)×12カ月×35年=1,260万円

【合 計】1億1,365万円

35年で比較してみたら賃貸の方が安かった

35年間の単純な比較では、購入の方が費用が高くなってしまいました。

賃貸の場合、新築当初の家賃がずっと続くとは考えにくく、実際には毎月の支払額は徐々に減っていくでしょう。また、ライフステージに応じて2LDKや1LDKなどに間取りをダウンサイジングし、さらに家賃を抑えるなど、柔軟に対応することができます。

一方、購入の場合は毎月のローン返済額は変わらない上に、修繕積立金が新築時から上昇していくことが予想されます。また、エアコンや給湯器などの設備の故障やメンテナンス費用も自己負担となります。

ローンを完済すれば購入と賃貸のコスト差は縮まるかもしれませんが、その差が逆転するのは一体いつになるのでしょうか?これが正直な感想です。

なぜ売買の方がお得という記事が多いのか

賃貸より売買の方が利益が大きいから(不動産会社の記事の場合)

先ほどの例でいえば、賃貸マンションを仲介した場合、不動産会社の収入は21万円(+消費税、両手仲介の場合)となります。一方、売買の場合では、7,500万円×3%+6万円=231万円(+消費税、片手仲介の場合)の利益が得られます。その差は10倍以上にもなります。もしあなたが不動産会社に勤めているなら、どちらをおすすめしますか?

スポンサーが大手建設系の不動産企業だから(不動産サイトの記事の場合)

多くの不動産サイトは、不動産会社、特に売買系の不動産会社からの広告費が収益の柱となっていることが多いです。そのため、スポンサーの営業を妨げるような記事は書きづらいのが現実です。本記事を書くにあたり参考にした不動産サイトでも、どの地域を基にしたのかは不明ですが、賃貸の相場と比較すると分譲マンションの価格が明らかに低く設定されているのではないかと感じました。

景気対策の一環として住宅購入が奨励されているから(国策)

国は昔から景気を上昇させるために、住宅ローン減税などを活用して住宅取得を促進し、個人消費を喚起してきました。さらに最近では、都心の容積率を緩和して高層マンションの建設が進められ、タワーマンションへの憧れを煽るような建設業・不動産業・メディア・政府が一体となったイメージ戦略が展開されています。これにより、更なる投資を呼び込もうとする動きが見られるのは周知のとおりです。

生涯年収が平均約3億円とされる中で、その何分の一かを占めるであろう人生最大の買い物である住宅は、景気対策として非常に有効なのです。

でも購入したら資産になるからお得とお考えの方へ

確かに今まではその通りです。でも今後は断言できないかもしれません。

不動産には2つの資産の性質があります。1つは不動産を売却することによってお金に換えられるという点、2つ目は運用によって賃料を得られる点(もしくは自分が住むことによって賃料を支払わなくてもよくなる点)です。

今までは不動産価格が全国で右肩上がりで上昇しており、購入したお部屋が中古となってもある程度の価値を残すことが出来ていました。

ですが今後は以下のような問題が発生すると想定されています。

①一部地域への人口集中、そのほか大多数地域での過疎化の問題

国土交通省 「国土の長期展望」中間とりまとめ 参考資料より抜粋

上記は将来の人口増減を色によって表した図になります。今後は東京や名古屋などの主に都市部(赤いところ)に人口が集中し、それ以外は全国的に人口減少が加速、無人化が懸念される地域もあります。

人口が増加する地域=人気のあるエリアのため不動産価格は今後も上昇する可能性がありますが、人口減少する地域=人気のない地域として不動産価格は下落する可能性があります。一部の地域ではすでに高止まりから下落に転じているエリアもあります。

人口減少が続くエリアの場合、税収減によって公共サービスの縮小や、大型スーパーや医療の撤退、生活の足であるバスなどの運行縮小を招き、また人口減少するという負のスパイラルに陥り人口減少が加速度的に進んでいくでしょう。

①労働人口減少問題

(出典)内閣府(2022)「令和4年版高齢社会白書」

上記の図は労働人口の推移を表しており、近いところで2025年では労働人口(15~64歳)が推定7,170万人から2050年には5,275万人と26.5%減となる予想がなされています。労働人口層が不動産購入層と仮定すれば需要が縮小していくことを意味し、需要が減れば不動産価格は下落していくことが想定されます。

③その他の問題

大相続時代の到来

直近では団塊の世代が所有している不動産の相続問題というものもあります。これは団塊の世代が購入した不動産が世代交代でその子供たちに相続されていくのですが、国策によって不動産購入が奨励された結果その子供たちは別の不動産をすでに所有しそこが本拠となっているので、親の不動産は不要となり市場に流れ込んでくるという問題です。中古市場に大量に出てきてしまうと不動産価格が不安定になることが懸念されています。

金利上昇

日本は景気回復の下支えとするために長くゼロ金利という超超低金利政策でした。昨今では景気回復の兆しがみられたためかゼロ金利政策は解除され徐々にではありますが上昇トレンドです。金利が上昇していくとローンの総支払額が高くなり、買い控えや購入したくてもローン審査に通らない方が増え値段は下降気味になります。

住宅ローンを支払い終えたとき、その不動産が資産となるかは不透明

前出の1つ目の図で、例えば25年後に無居住化が想定されるエリアで今新築マンションを購入した場合、35年ローンを完済後売れるでしょうか。また、実際に無居住化してしまったら、公共サービスはおろか食材の購入や適切な医療を受けるのが難しい場所で貸し出せるでしょうか。また自身も住み続けられるのでしょうか。

段落のはじめでお話しした通り、売却してお金に換えられるか運用して賃料収入が得られるか(もしくは自身が住んで賃料を払わなくていいか)が出来て初めて資産であると思います。自身で住むこともできなくなってしまったら固定資産税を払うだけのマイナスの不動産、負動産となります。

今までは不動産価格がどの地域でも上昇したため不動産が資産と言われてきましたが、エリアによっては今後不動産価値がどれくらい残るのか、不透明な時代が到来しています。

結局賃貸と購入、どちらがお得なのか

前出の計算でコストという意味では賃貸の方がお得だと言えます。私の会社は賃貸専門なので賃貸の方がお得と結論付けた方が好ましいのですが、正直に申し上げて住まいのお得さはコストではないと考えています。

例えば、年収600万円の20代後半の夫婦でお子様が1人いらっしゃるご家庭でも、その選択は実に様々です。

  • 通勤を最優先に考える夫婦は、交通の便が良い都内にできれば購入したいけれど新築は厳しそうなので賃貸を選択
  • 子育て環境を重視する夫婦は、子育てしやすいと言われる地域でまず賃貸で試してみて、後々購入を検討
  • 子どもの教育や体験に重点を置きたい夫婦は、住居費を抑え教育に回すために会社からは少し離れた場所で賃貸を選択
  • 資産性を重視する夫婦は、将来的に値上がりしそうな人口増加予定の地域に購入を選択
  • 将来二世帯住宅を視野に入れる夫婦は、頭金を貯めるために賃貸を選択

つまり今もしくは将来においてみなさんの価値観に基づいた理想の生活を送ることこそが、皆さんにとって本当のお得(人生にとって有益)なのであって、賃貸か購入かという問題はそれを叶えるための選択の1つにすぎません。そして大抵の場合、理想の生活や至るシナリオを詳細に思い描いた時点で賃貸にするのか購入するのかは結論が出ていることが多いのです。

人それぞれの価値観よってお得さは異なり、それによって選択も異なる為、「賃貸と購入どちらがお得か」は人によって答えが違うというのが私の結論です。

最後に

今回は賃貸と購入のどちらがお得かについてお伝えしました。

本当はズバッとこちら!とお伝えできれば気持ちが良いと思うのですが、皆さんの価値観がわからない以上、どちらが良いというのはポジショントークにしかなりません。

この問題を不動産会社に相談したらおそらく購入を勧められますし、様々な不動産サイトを見ても購入が良いと結論付けられているサイトが多く、また夢のマイホームなどといった風潮や、購入するのが普通といった同調バイアスなどから購入に流されがちですが、まず送りたい理想の生活をイメージされその生活を送るには賃貸が良いのか購入が良いのか、それとも親と同居するのか、様々な選択肢の中からご自身が選択された結果が、きっとあなたにとって一番お得だと思います。

ちなみに私個人の話をすれば、50歳過ぎたあたりで老後のために1LDK位の中古のマンションを購入し、それまでは賃貸で行こうとと考えていました。

私はおいしいものや尊敬できる人に出会ったり、素晴らしい景色を見たりなどの経験が自分の人生の中で非常に重要だと考えています。誰しもが不動産購入を考える30手前私も同じく購入を検討しましたが、購入してしまうと金銭的な面で経験に大幅な制約がかかることとなる為、購入を断念しました。(転勤の可能性、大家族を想定していたわけではなかったこと、賃貸の設備でも不満はないことも理由ですが)両方叶えられれば良かったんですけどね。

築20年前後の中古マンションであれば比較的値段も落ち着いて、耐用年数から考えても終の棲家とするには十分な期間住め、ちょうど水回り等のリフォームの時期に差し掛かることから自分の使いやすいようにリフォームして終の棲家とし、マンションの建て替え問題の前に次の世へ旅立てたら良いなというのが当時の思い描いたライフプランです。

ですが、人生には不可抗力で選択の結果を変えねばならない出来事が起こることがありまして、私も例外ではなく、上記の選択を途中で変えることとなりました。でも都度自分にとって一番最良のライフプランを考え直し、これが一番という選択を取り続けていると思っています。

どんな選択であっても自分を信じていきましょう!!

補足:安心のために終の棲家として不動産購入をお考えの方へ

高齢になると賃貸は借りづらくなるので若いうちに買っておきたいと思われる方へ、これはあくまで個人的なアドバイスなのですが、終の棲家として購入されるのであれば将来その地域にあなたの必要とされる生活サービス(大型スーパーやバス便、病院など)が残るのか十分検討していただきたいと思います。

せっかく終の棲家と思って購入したのに生活に必要なサービスが撤退してしまったら住めなくなってしまいますし、住み替えを検討してもその地域ではすでに人口減少が加速している地域であれば不動産価格の下落が想定され、他のサービスが維持されたエリアで購入し直す場合はかなりの出費が予想されます。(サービスは最悪要らない、この地域を愛しているからここに住むんだという方はもちろんお気持ち優先でいいと思います。)

ではどうやって検討するための情報を手に入れるのかというと、お住まいになりたい市区町村や県、国など、公共機関等が出している情報に触れ(民間の情報だと何かのバイアスがかかっている可能性がある為、公共機関をおすすめします)その地域が将来どうなるかを予測されることをおすすめします。一例をご紹介しますと、

国土交通白書2021 より引用

上記は国土交通省が発表している国土交通白書2021に掲載されている図です。この表は人口規模別の市町村数(2015年と2050年の推定値)と、生活必需サービスの存在確率が50%以下になる市町村の人口規模の推計値を表しており、例えば、病院の存在確率が50%以下となる市町村の人口規模は17,500人(グレーの矢印)で、その人口規模を下回る市町村は全市町村の内、2015年は53%(赤線)であるが2050年には66%(青線)に上昇すると読みます。

この表から、各サービスの存在確率50%以下となる(グレーの矢印)人口数だけをピックアップすると

サービス名サービスの存在確率50%以下となる市区町村の人口数
大学97,500人
総合スーパー47,500人
有料老人ホーム27,500人
病院17,500人
銀行6,500人
コンビニ2,200人
一般診療所1,800人
あくまで確率のため、上記人口以上であってもサービスが撤退する(なくなる)可能性はあります。

となり、これをお住まいになりたい市区町村が発表している将来の人口推定値と重ね合わせ、自分が必要とするサービスは将来残りそうなのか検討するのも一つの方法だと思います。

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